マカオの壺焼き

内容意味不明。タイトル意味不明。管理人脳内意味不明。 の意味不明三冠王なブログです。
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マカオ
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かごめ かごめ かごめ 最終話

「女が階段を踏み外した。結果として胎児は堕胎、女は意識が戻らない。」
目を赤く腫らした女の召使いが老婆に告げた。
老婆は少し驚いたような表情を見せ、更に着物のすそで目頭を拭く。
「あぁ・・・そうか・・・。」
老婆の返答を受け取った召使いは、一礼して去っていった。
部屋に一人佇む老婆は、顔を覆い隠していた着物のすそをゆっくりと下ろし、毒蛇の笑みを浮かべたあと、普段通りの雑務をこなし始めた。


明け方とも言える深夜、老婆が女を階段から落として、ちょうど一日が経とうとしていた。
つい先ほど自室に戻った老婆は、部屋の中央で、立ち尽くしていた。


老婆の部屋に、あの掛け軸が掛けてあったのだ。


長寿の象徴たる、鶴と亀の描かれた掛け軸には、至る所に血飛沫が飛び散っており、まちがいない、あの階段に掛けてあった掛け軸だった。
「な・・・なんで、これが、ここに?」
そしてここで、老婆に一つの疑念が浮かぶ。
確かに老婆は女を階段から突き落とした。あの女が血だまりに沈む様を、この目で見た。


だが、あの女や胎児がその後どうなったかは、全く確認していない。


「子供は堕胎、女は意識が戻らない」そう聞いた。だが、それが真実である確証などありはしないのだ。
更に老婆は思い出す。その「女と胎児のその後」を自分に伝えたのは誰だったか。
そう、あの召使いは、女に仕えていた召使いだった。もし、あの召使いが自分に伝えたことが嘘だったとしたら。女も胎児も無事で、女が老婆に突き落とされたことを喋ったら。
勝利の栄光、余韻に浸っていた老婆の表情は一転、顔面蒼白となる。
ふり返ると、一つの人影が障子に映り込んだ。
老婆は後退る。まさか・・・あの召使いか?
一瞬老婆の中で何かが激しくどよめいたが、老婆はその考えを恣意的に拭い去ろうとした。
あの考えは、あくまで不安要素でしかない。事実無根の想像でしかないのだ。
そうだ、血が付いてしまった掛け軸を取り外した誰かが、何らかの理由でたまたまこの部屋に置き忘れてしまっただけのこと。
そう自分に言い聞かせながら、障子に映った人影の動向を凝視していた。
老婆は、なんとなく感じ取ったのだろう。その人影の異質を。


人影が障子の端から端へ渡りきらない内に、後ろからもう一つの影が現れた。
すると反対側からも、また一つ人影が現れる。
このような時間帯に、三人もの人が自室の前で鉢合わせする。
極めて稀だが、有り得ないことではない。有り得ないことではないなら、きっとそうなのだ。ただの偶然でしかないのだ。
また自分に言い聞かせようとしている老婆の呼吸は荒れ、心拍は全身を駆け巡ってあまるよう脈動していた。


三人、四人、五人、六人・・・
いくつもの人影が、障子に映し出される。人影は限りなく増えていく。
そしてついには障子全体を覆い尽くすほどの影となる。
老婆は愕然としていた。カッという渇いた呼吸音が漏れた。呼吸すらままならない。


どこからか、赤子の産声のように、小さく、だが確かに、唄が流れてきた。


囲め 囲め


ここから逃げなければいけない。本能的にそう感じ取った老婆は、年齢を思わせぬほど機敏な動きで影の映っていないほうの障子を開けようとする。
しかし、障子は、ぴくりとも開こうとしない。
老婆の頭の中が真っ白になる。何故開かない。何の変哲もないただの障子なはずなのに。
何十年と過ごしてきた家だ、この障子の奥に続く部屋がどうなっているのか、老婆は理解している。
これからこの障子が開いて、その部屋に駆け込む自分も、容易に想像できる。
だが、それが適わない。籠、あるいは檻のように、この影に囲まれた空間は老婆を掴んで放さない。


唄はだんだんとその調べを明確なものとし、ついには老婆の耳に届く大きさとなる。


籠の中の鳥は いついつ出やる


ガタン!


突然の物音に老婆は驚く。即座に音のしたほうへ目をやると、掛けられていた掛け軸が裏返しになって落ちていた。
一呼吸の間、老婆は落ちた掛け軸を見ていたが、何も起こらない。
それどころか、障子の後ろで蠢いていた影の動きもやんでいる。
二呼吸目、落ち着きを取り戻そうと深く深く息を吐いた時、老婆は気づいてしまう。
強制的に停止させられる呼吸と心拍。
裏返して落ちたものは何か。
そう、あれは長寿をつかさどる二つの生き物を描いた掛け軸。
掛け軸は、自らの力で、その在り様を示したのだ。
そして影が動き始める。恐怖で縛られてしまった老婆と相反するかのように。


変わらず唄は紡がれ続ける。


夜明けの晩に 鶴と亀が統べた


老婆は足掻く。心で、身体で、自らのすべてを以って。
だがそれでも身体は動かない。老婆はどこかで諦めているからだ。「自分は助からない」、と。たとえ1%の疑念でも、それは100%の希望の不在を現す、紛れない絶望。
蠢く影の中から、老婆は一人の人間、だったものの気配を感じ取る。
あの女の気配だ。蠢く影の中、だがはっきりと判る。
足音を聞いたとか吐息をなんかじゃ決してない。本能的な恐怖だけが、演技や嘘からでは生まれ得ない、絶対的な憎悪を感じ取る。
そして恐怖が老婆のすべてを埋め尽くす。心も、身体も。足を縫いつけ、胴を縫いつけ、腕を縫いつけ、首を縫いつけ、唇を縫いつけ、老婆のすべての自由を略奪する。


絶えず流れ続けていた唄も、最後の曲面を迎える。この物語の終焉とともに。


後ろの正面 だぁれ?


老婆の後ろにいたのは、ドス黒い、愚鈍で明確な憎悪と殺意を持った、一つの影だった。


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