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 マカオ
DTIブログにようこそ!
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(今回は真面目な小説です。グロテスク注意。)
(この話はフィクションです。実在の人物、団体、病気などとは一切関係ありません。)
●とある国の認死症研究機関の代表取締役が世界最大のスーパーコンピュータのある自室に戻った時点で、全世界の約5割の人間が認死症患者となり果てた。もちろんこのことを知る人間は存在しないが、統計学として人間という種の半分が《共喰い》を、《死》を《認めた》のだった。
自室で休んでいた俺の耳が、足音を聞き取った。だけど俺は動こうとは思わなかった。この憔悴しきった精神と体が、反抗の意思を大きく削いだ。そうは言っても無防備に死ぬのは御免だ。右手にはやはり拳銃が握り締められていた。
足音が一歩一歩大きくなるにつれ、俺の心拍も上がっていく。右手に震えは無い。殺す覚悟はもう出来ている。そしてついに足音は最大。音の主が聴覚だけでなく視覚で捕らえられる位置に現れた。
姿を現した足音の主、そこにいたのは一人の少年だった。目を真っ赤に腫らして、身体は俺と同じく血まみれだ。きっと必死にここまで逃げてきたのだろう。俺はあっけに取られる。しばしの間、見つめ合う二人。死の蔓延した世界で、未だ生にしがみつく二人。ほろりと俺の頬をつたう一筋の涙。気がつくとなぜか涙が溢れていた。
ああ・・そうか。これだ。俺が求めていたものは。俺が研究を始めたときもこんな気持ちだった。「人を救いたい。」俺は心に絶対にこの少年を守ろうと誓う。心だけじゃない、少年に、神に、今まで彼を守ってきた者たちに。
「大丈夫だ。俺は君を襲いはしない。こっちへおいで。少し苦いけど、コーヒーをいれてあげよう。」
なるだけやさしい言葉を探して少年を安心させようとする。これじゃかえって怪しいかもしれないけど、俺が吐ける精一杯のセリフだった。流した涙で目が潤んで少年の顔がよく見えない。
拳銃を机に投げ出し、手元のタオルで涙を拭って、せっせとコーヒーサーバーを取り出す。しかし、突然俺の手が止まる。何らかの違和感。出所は間違いなく少年からだ。全身を捻って振り向く。頼む、思い過ごしであってくれ。
俺とまた視線が合うと同時に、俺を見上げた少年の口が裂けるほどにつりあがった。彼の目に子供のあどけなさは無く、鋭い眼光が俺を付狙っている。脳内で上半身裸の男がフラッシュバックされる。俺の本能がこう告げた。《危機に備えよ》まるで夕闇のような陰りが俺の視界を蝕んでいった。
●そして今、某大国から世界へーもちろん研究所のスーパーコンピュータにもー新たな情報が発信された。内容は「認死症は進化している」たったその一文だけだったが、人間の英知が真理に辿り着くには充分な情報だった。
朝靄に包まれたようにはっきりしない感覚。俺の身体はまだ温かみを残す血に濡らされていた。俺は・・・何をしているんだ?少年は・・・どこへ行った?朦朧とする意識を叩き起こし、どうにか記憶を辿ろうとする。
だがそれを邪魔するように警報が鳴り響く。なにやらスーパーコンピュータが重大な情報を掲示するようだ。俺は目線だけを液晶画面のほうへと向けた。
すべての情報と知識を詰め込んだスーパーコンピュータはたった今膨大な演算を完全に終了し、この施設に在籍するすべての研究者にとって皮肉でしかない解を導き出していた。
「認死症ハ病気ニハカテゴリサレマセン。コレハ本能、人間ノ新タナル進化デアリ、食イ止メル方法ハ存在シマセン。」
ーーあぁ、そうか。これで確信がもてた。俺ももうすでに・・・イヤ、俺こそが・・。突然意識が明確になる。俺は真理にたどり着いてしまった。スーパーコンピュータに結論を告げられたとき、俺は理解してしまった。俺の目的とその末路を。俺の白衣がこんなにも赤いのは、認死症患者に襲われた時俺が生き残った理由は、あの少年と会った後の記憶が鮮明でないのは・・
ガガンッ!!!
突然ドアを蹴破って男が現れる。その男は、朝コーヒ−を買ってきてもらった監視員だった。必死の形相でこちらを睨みつける。
「俺は監視カメラで見たんだ・・てめえがあの人たちをッ!!」
彼は右手に大きな鉈を携え、構えをとった。
あぁ、彼は俺を殺そうとしている。仕方の無いことだ。矛盾や不条理などは一切感じない。皆そうやって死んでいった。俺が例外になる理由などどこにも見当たらないからだ。
荒々しい呼吸を小指の甘皮ほど抑えて、彼はこわばった表情とその全身に力を込める。何故かな、とても清々しくていい気分だ。俺は抑揚の無い口調で彼に忠告する。
「はずすなよ。お前も喰われるぞ。」
ふと壁掛けの時計が目に入る。23時48分18秒ー。そうだな、あと7秒といったところか。ふう、もうあと5秒。ほら,少し身を引いたあと、彼が走り出した。
あと4秒。丸椅子を蹴飛ばし、鉈を大振りで振りかぶる。
あと3秒。あと2・・・・・・・・・・・・・・・・
0秒。計算通り、俺の首から上が研究室の床にころがった。痛みも無い。今の心情を一言で言い表してやろう。「青天の霹靂」、まさにこのことだ。以前の俺ならこんな無残で無秩序な死に方悔しくて仕方が無かったろうが、今はちがう、これこそまさに本懐といったところだ。つまり、これこそ俺の目的であり、これこそ俺の末路だからだ・・・・。
ブレーカーの落ちた視界の中で、俺は考え、もういちど結論をたたき出す。まるですべてのピリオドを打つかのように。
あと5秒。「俺は3人の人間を喰った。己の本能が儘に。ならばその本能は何故そうさせた?本能とは《種の保存のための原初の思考》のはずである。ならば同族同士の食い合い等まったく持って非生産的だ。」
あと4秒。「しかし、これがまったくもって無意味な行動、本能という原初の思考が無意味ならば、思考を繰り返すことで食物連鎖の頂点に立った人間にはあまりに皮肉な結末だろう。つまり、この本能には、この病には何らかの意味がある。」
あと3秒。「増えすぎた人間、種の保存、本能はこう言った。《危機に備えよ》と。全てが繋がる。危機とはこの本能、認死症がもたらす《共喰い》のことではない。いずれ起こる人間の絶滅をも考えられる危機、それを本能は感じ取ったのだ。増えすぎた人間たちを共喰いさせることで強い種を残す。それこそが危機を乗り越え、種を残す上で本能がとった最良の選択だった。」
あと2秒。「だからこそ俺は人を喰った。いつの日にか、生き残るべき強者に喰われる為に。」
あと1秒。突然俺の首から上についていたものはヒョイと持ち上げられた。
0秒。計算通り、彼は俺を喰った。いつか誰かに喰われる為に。
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[2007/05/22/00:16][ ↑ ][ ↓ ]
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2008/04/08/火
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